特許 令和6年(行ケ)第10053号「木質ボード」(知的財産高等裁判所 令和7年2月20日)
【事件概要】
本件発明1は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとして、本件発明1についての特許を取り消した特許異議の決定が維持された事例。
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【主な争点】
相違点の認定。
【結論】
2 甲1発明及び本件発明との相違点の認定について
証拠…及び弁論の全趣旨によれば、甲1発明の内容及び本件発明との相違点1、2…については、本件決定が認定したとおりであると認められる。
3 相違点1、2の認定の誤りについて
(1)原告は、…個別に認定された相違点1、2に係る本件発明1の各構成(「寸法に係る構成」及び「形状等に係る構成」、併せて「寸法・形状等に係る構成」)、「密度に係る構成」及び「配向に係る構成」は、発明の技術的課題の解決手段として、互いに関連するひとまとまりの手段として機能し、相乗効果を奏するものであるから、併せて一つの相違点として判断しなければならない旨主張する。
(2)しかし、本件明細書には、前記1の各記載を含め、「高強度で寸法安定性や表面性に優れ、製造の容易な木質ボード」という発明の技術的課題の解決手段…として、①「寸法に係る構成」を含む木質小薄片の厚さ、長さ及び幅の数値範囲の構成が本件発明1とほぼ同じである「第1の発明」の木質ボード…とその奏する効果…、②「第1の発明」の木質ボードが本件発明2の厚さ、長さ及び幅の数値範囲の構成を有する「第2の発明」の木質ボード…とその奏する効果…、③「第1の発明」又は「第2の発明」の木質ボードが「密度に係る構成」を有する「第3の発明」の木質ボード…とその奏する効果…、④「密度に係る構成」及び「寸法・形状等に係る構成」を含む本件発明1の木質小薄片の厚さ、長さ及び幅の数値範囲の構成を有するが、「配向に係る構成」については繊維方向の配向性は必須ではなく、繊維方向がランダムに配向されていてもよい木質ボードA…とその奏する効果…については記載されている。しかし、「配向に係る構成」の効果は、本件発明の効果として示されておらず、「密度に係る構成」、「寸法・形状等に係る構成」及び「配向に係る構成」が、それぞれ単独で奏する効果を超えて、互いに関連して機能することを示す記載や相乗効果を奏することを示す記載はなく、そのように機能することが想定可能とみるべき作用機序等の記載も認められない。
(3)また、本件明細書における発明の効果の記載がこのようなものである場合に、本件訴訟提起後[に]…作成された実験成績証明書…を参酌すべきか否かという点を措くとしても、実験成績証明書…には、実験結果として…が示されているにとどまる。これらの実験結果によれば、木質小薄片の長さ、木質ボードの密度又は木質小薄片の配向性を異ならせて比較した場合、これらの要素が強度、寸法安定性又は平滑性に影響を与えることが分かるものの、「密度に係る構成」、「寸法・形状等に係る構成」及び「配向に係る構成」が単独で奏する効果とその重なり合いを超えて、各構成が互いに関連して機能し、組合せによる相乗効果を奏することまでは認められない。「実験の結論(考察)」として記載されている内容をみても、各構成が奏する上記の効果とその理由は述べられているが、各構成が互いにどのように関連して相乗効果を奏しているのかについての説明はない。
(4)以上のとおり、本件明細書の記載のほか、実験成績証明書(甲17)を参酌したとしても、相違点1、2に係る本件発明1の各構成が、「密度に係る構成」、「配向に係る構成」とともに、互いに関連して相乗効果を奏するものとは認められない。
したがって、原告の前記主張は、その前提が認められないから採用することはできず、本件決定の相違点の認定に誤りがあるとはいえない。
【コメント】
裁判所は、複数の構成を併せて一つの相違点として判断するためには、複数の構成がそれぞれ単独で奏する効果を超えて、互いに関連して機能したり、相乗効果を奏したりすることが必要であると判示した。本願発明と引用発明との構成の違いを、どこまでまとめて一つの相違点と認定するべきかを判断する際の参考になると思われる。